「そろそろ作り始めるか。おむすびは芋煮の手伝いを頼む。響は小鍋の中身を煮ておいてくれ」
「はい」
「わかったわ」

 一心さんは、すでに切って持ってきた材料を大鍋で炒めていく。里芋、人参、大根、ごぼう。豚肉にネギ、こんにゃくに油揚げ、まだ旬には早い白菜もまるまるひとつぶん。
 火が通ったあとは、水をひたひたになるまで入れる。調味料はお出汁と味噌。

「芋煮って聞いたときは芋の煮っころがしみたいなものを想像したんですけど、豚汁に近いんですね」

 煮物というよりは汁物だし、芋だけではなく根菜もたっぷりだ。

「芋煮でも県によって作り方が違うらしい。うちは祖母が宮城県出身だからそっちの作り方だが、宮城の芋煮は豚汁に近いらしいな」
「へえ、そうなんですか」
「山形のほうは牛肉を使うし、醤油と砂糖を使った甘辛い味付けだそうだ」
「同じ芋煮なのに全然違うんですね」

 甘めのけんちん汁とか、汁気の多い肉じゃがに近いのだろうか。そちらの味も気になる。

「一心ちゃん。これって煮立ったら具も入れちゃったほうがいいのかしら」

 響さんは、小鍋の中身を見ながら首をかしげた。

「いや、それは俺がタイミングを見て入れておく。食べるのは芋煮のあとになるだろうし、入れておくと煮込みすぎるからな」
「そうね、じゃあ水っぽさがなくなったら火を止めておくわ」

 黒っぽい中身を隠すように、響さんは優雅な動作で蓋をちょんと乗せた。
 芋煮のほうも、そろそろ材料が煮えてきた。手伝ってとは言われたけれど、一心さんひとりで手が足りているので特にやることがない。普段も大鍋でお味噌汁などを作っているせいか、材料が多くても一心さんは悠々と手を動かしている。

「あの、一心さん。アクを取りましょうか?」

 見ているだけなのが手持ちぶさたで申し出る。

「じゃあ、頼む」

 一心さんは少し迷ったけれど、私になにも仕事を頼んでいないことに気づいたのか、うなずいてくれた。