一週間後の土曜日。昼営業はお休みして待望の芋煮会だ。
 場所は、近くの河川敷。自治体への届けもばっちり済ませてある。
 私と一心さんは響さんに車を出してもらって、鍋や材料、テーブルなどを会場に搬入した。渋皮煮は、もうできあがっているものを鍋ごと持って行く。

 数日前から一心さんが渋皮煮を作るのを手伝っていたが、これは本当に時間と手間がかかる。
 まず、皮をむいて水に浸すのに一晩。そして、茹でて味を染み込ませるのにもう一晩かかる。せっかちな食いしん坊さんには向かない料理なのだ。
 大量の栗を、渋皮を傷つけないように包丁で丁寧にむくのも難しいし、茹でるときだってアクを抜くために何度も水を替えなければいけない。

 ただ、それだけ手間がかかっているだけあって、その味は絶品だ。
 昨日、冷ました渋皮煮を味見させてもらったのだが、ほっぺたが落ちるかと思った。
 まるごと一個の大きな栗がほろっと崩れて、口いっぱいに甘さと栗の濃い風味が広がる。汁っぽくてじゅわっとしているのが市販のマロングラッセとは違う。手を痛くしながら手伝ったひいき目を抜きにしても、いくらでも食べられそうなおいしさだった。

 一心さんが、芋煮会でみんなに振る舞いたいと思った気持ちがわかる。だって、みんなが食べたときの驚く顔と笑顔が想像できるもの。

「一心ちゃん、テーブルとカセットコンロはこのあたりでいい?」
「ああ。なるべく平らなところに頼む」

 ドッヂボールができるくらい広めの河川敷に、芋煮用の大鍋、渋皮煮が入った中くらいの鍋、そして小鍋の三つをセッティングしていく。疲れた人用に、折り畳み椅子も何脚か用意した。荷物自体はワゴン車一台に収まるくらいの量なので、三人で手分けしたらすぐに終わってしまった。

 水筒の麦茶を飲んでひと息つきながら、景色を見渡す。秋晴れの空は高く青く、陽射しを受けて川の水面がきらきらと輝いている。道路沿いのイチョウの木から落ちてくる黄色い葉っぱが、芝生と土の地面にかわいいアクセントをくれる。

動いて汗ばんだ肌に心地よいそよ風も感じられて、絶好の芋煮日和。