「空になったお弁当箱はあとで渡してもらえばいいから」
用は済んだとばかりに「じゃあね」と言って立ち去ろうとすると、腕を杉野くんに掴まれる。
「つーか、猪倉。一緒に食べない?」
「え?」
「中身、一緒なんだろ?教室で食べてたら目立つじゃん」
誰も私の弁当箱の中身なんて気にしちゃいないと思ったが、かつて変な顔で弁当を食べていると杉野くんに指摘された手前、断言はできない。
結局、図書館裏で落ち合うことにして、時間差で教室を出て行くことにする。
杉野くんから遅れること五分。
売店に寄ってカフェオレを二つ買ってから、待ち合わせ場所に向かうと杉野くんはお弁当に手を付けずに私の到着を待ってくれていた。
「なにそれ?」
「カフェオレ。杉野くんもどうぞ」
紙パックのカフェオレを渡しながら、段差に腰掛ける。
図書館裏は人気がなく、教室の喧騒も届かなくて、落ち着いて食事をするにはぴったりの場所だった。
こんなところがあったんだと、感心してしまう。
いつも教室で食べていたが、もしかしたらこの高校には人知れず多くのランチスポットが眠っているのかもしれない。
暇なときに探してみるのも悪くない。
(さて、今日のお昼はなにかな~)
今日は机がないので、膝の上にお弁当箱を置き、弁当箱を包むハンカチを解いていく。
現れたのはいつものライムグリーンのランチボックスではない。
蓋はレッド、本体はホワイト、形は長方形。折り畳みが可能なように底以外の四辺は内側に織り込めるようになっている。
兄がこのランチボックスを使う時は、ご飯ではなく“あれ”が入っている。
だから、売店でカフェオレを買ってきたんだ。
私の予想はズバリ的中した。
蓋を開けると、ランチボックスからは真っ白なパンでカラフルな食材を挟んだサンドイッチがお目見えした。
ご丁寧に断面を上側に向けてあるのが、心憎い演出である。
ご飯も好きだけど、たまにはパンだって食べたい。
そんな乙女心を分かっているのか、兄は時々不意打ちのようにサンドイッチを持たせてくれる。
(さあ、どれから食べようか……)
サンドイッチの具は、兄の気分次第でその時々によって異なる。
今日はハムチーズ、ツナサラダ、そしてたまごといった比較的定番の具材が挟まれている。
いつだったかはサバの塩焼きが挟まれていた時は、教室にサバの匂いが充満して大変な思いをした。