「ごめんね、杉野くん……。あの人、一度言い出したら聞かなくて……」

「いや、別に良いけど」

先を歩く杉野くんから一歩遅れてついていく。

なにがどうなって、こうなったのか。私には最早分からない。

分かっているのは、やはり兄はぶっ飛んだ思考回路の持ち主ってことだけだ。

「猪倉の兄さんって、変わってんな」

「そうなのよ。しかも無職だし」

変なパンツは履いてるし。閉店間際のスーパーが大好物だし。古びたスエットばかり着ているし。学生時代は優秀と言われていたのに、未だに無職のままだし。

変わっているところを挙げたらキリがない。

兄はバカと天才は紙一重という言葉を地で行く人間なのだ。

閉店ギリギリの時間に到着したということもあって、タピオカ屋にお客さんは一人も並んでいなかった。

タピオカ屋の二つ隣にあるファミレスでアルバイトをしている杉野くんの話によると、普段は結構行列が出来ているらしい。

「どれにする?」

杉野くんがラミネートでコーティングされたメニュー表を指さしながら尋ねる。

ひとくちにタピオカ屋といっても、定番のミルクティー以外にも色々と種類があった。

それに加えて、砂糖の量や氷のあるなしを決められるカスタマイズっていうのをしないといけないらしい。

「よくわかんないから全部普通でいいや」

なにせタピオカに関しては素人なので、その辺のことはよく分からない。

タピオカに不慣れなことを察してくれた杉野くんが、私の代わりに二人分の注文をしてくれた。

注文したタピオカミルクティーは五分と経たずに出来上がる。

(初タピオカ……)

私はちょっとドキドキしながら、杉野くんからタピオカのカップを受け取った。

太めのストローを勢いよく蓋に刺して、タピオカの重さに負けぬように一気にちゅるりと吸い上げる。

歯ごたえのあるタピオカをもぐもぐと噛み締め、ゴクンと喉に流し込む。

「お、おいしい……」

タピオカ美味しさに感激した私は思わずカップを二度見した。

(なにこれ、なにこれ!!)

感動冷めやらぬ間に、もうひと口。

初めて飲んだタピオカはもちもちとした食感でほのかに甘くて、ミルクティーとの相性は抜群だった。

(これはまずい。はまっちゃう……かも……)

タピオカを啜りながら、どうしてもっと早くこの美味し飲み物と出会わなかったのかとひたすら後悔するばかりだった。

その後、タピオカにはまってしまった私は兄に隠れて、週二日でタピオカ屋に通い始めた。

お財布と制服のスカートがきつくなったことに危機感を感じたのは、通い始めて二週間後のことだった。

(うっそ!!三キロも増えてる!!)

体重計に乗った私は戦慄した。

そして、たとえお兄ちゃんの奢りでもこんな高カロリーなものは二度と食べないと心に誓ったのだった。