彼は幼い頃から料理を作っていた。共働きの両親と、年の離れた姉が家にいなくて、お腹が空けば、自分で作るしかなかったからだ。
嫌なことがあっても、キッチンに立って何か作れば、それがストレス発散になっていた。
中学生になると、彼に好きな人が出来る。彼女は料理が苦手で、料理上手と噂される彼を、素直に羨ましがった。
彼は次第に彼女に自分の料理を食べて欲しいと思うようになる。そのチャンスは一度訪れるが、タイミング悪く、その日の弁当は失敗していた。
どうしても彼女に食べてもらいたくて、それが許される関係になりたくて、勇気を振り絞って彼女に告白し、恋人関係になる。だが、彼と同じように彼女を想う同級生が彼女の隣にいるところを見て、身を引いてしまう。
それでも彼女のことを忘れられなかった彼は、時が過ぎても彼女の笑顔を想像しながら、今の恋人に料理を振る舞う。