昔から一人で家にいることが多かった。
共働きの両親は当然夜遅くに帰ってくるし、歳の離れた姉はもう家を出ていた。


お腹が空けば、自分で作るしかなかった。


初めて作ったのは、チャーハン。
母親の味に慣れた舌は、それを不味いと感じた。


だけど、空腹は一番の調味料で、美味しくなくても完食した。


その日から少しずつ、自分でご飯を作るようになった。
料理を作ることが、ストレス発散になっていった。


それは友達の家にいるときも同じだった。
急に料理したくなって、勝手に作ったりもした。


中学二年の夏休み。
一日活動をする、なんて絶対ない部活で、弁当が必要になった。


それは単に、作業が間に合っていなかっただけだった。


学年ごとに布絵本を作るという活動だった。
二年は六人いたというのに、働いていたのは自分を合わせて二人だけだった。


必然的に彼女と二人きりになる。
無言で作業というのも気まずく、適当な会話をした。


彼女は、好きな人だった。


だけど、彼女に相応しくないと思って、少しでも彼女の好みのタイプに近付きたくて、それとなく情報を集めた。


「私はお前が羨ましいよ」


ずっと手が届かないと思っていた彼女に、そう言われた。


「私は小さいときから裁縫をさせられた。だから今、そのスキルが役に立ってるけど……でも、将来的に必要なのは料理スキルじゃん。それができるお前が羨ましい」


彼女は嘘をつける人ではなかった。
素直に、嬉しかった。


弁当が自作だと知った彼女は、本当に羨ましそうな目で見てきた。


でも、運の悪いことにその日の弁当は失敗作だった。
分けたくても、出来なかった。


残念そうにする彼女が、とても可愛らしかった。


また次の機会に、と思ったのに、その日以降、一日活動する日がなかった。


二学期になって、彼女に告白をした。
いい返事を貰え、付き合うことになった。


いつか彼女に手料理を振る舞うのだと、勝手に心を躍らせた。


だけど、現実はそう上手くいかない。