「相当びっくりしてましたね、翡翠」
「あんなことがありましたからね、真澄さんも六花も塞ぎ込んでると思っていたんでしょう。単純ですから」
時雨さんも少し呆れ気味ながら微笑んで、洗濯ものをたたみ始める。折り目ひとつ気を配る丁寧なたたみ方は几帳面な性格がよく表れていた。
りっちゃんが時雨さんの洗濯もののお手伝いに加わったのを見届けて、私は炊き上がったご飯を混ぜるためお釜の蓋をあけた。
ひと粒ひと粒つやつやとたったお米は、どんな食事にも幸せを与えてくれる。
これだけで食卓に一気に華が出るのだから、やっぱり白いご飯は日本人には欠かせない主食だ。四等分にしてさっくりと均等になるよう混ぜながら、炊きたてのお米の香りを楽しんで、そっと蓋をしめた。この時間が、実は結構幸せだったり。
「よし、こんなもんかな」
煮物の味を落ち着かせている間に、ご飯もちょうどよく蒸れるだろう。
私は大きく腕をあげて伸びをして、ふぅと息を吐き出す。
翡翠がお風呂から上がったら、いつものようにみんなで食卓を囲う。そして、大事な話をしなければならない。私にとっては、とても大事な話を。
「しーちゃまにはねぇ、六花のこんにゃくいっぱいあげるからね」
「こんにゃく、ですか? ……自分、こんにゃくは少し苦手……」
「んえ?」
「いえ。せっかく六花が作ったものですし、ちゃんと……ひとつは頂きますよ」
小鉢に副菜を盛り付けていたら、そんな会話が流れてきて、思わず吹き出しそうになってしまった。まったく時雨さんは真面目過ぎる。
しかし、あの時雨さんにも苦手なものがあると思うと、なんだか少し安心する。
やっぱり完璧な人ほど、ちょっと意外なところがあると人間味を感じられるのかも。
まあ時雨さんは人間じゃなくて、神さまだけど。
ただ、その点で言えば、翡翠の苦手なものは子どもの嫌いなものランキングトップの『ピーマン』だということを私は知っている。りっちゃんでも食べられるのに、どうしてもピーマンだけは口にいれるのも嫌らしく、食事に出ている時は綺麗にそれだけ残すという本当に子どもじみたことをする。
まあ、かくいう私は香草類が苦手だし、りっちゃんはゴーヤが、コハクは生とつく物が苦手なので、当たり前だがみんな食の好みが違うのだ。