◇
カンカンカンと子気味の酔い音を響かせながら、散らし用のネギを刻んでいく。
かたわらで下処理したこんにゃくを一生懸命ねじっているのはりっちゃんだ。手伝えることが嬉しいのか、口元には楽しそうな笑みが浮かんでいる。
「上手だね、りっちゃん」
「ん!」
薄切りした板こんにゃくの中心に切れ込みをいれ、ひっくり返すだけで出来るねじりこんにゃくは、ほんの少し手間はかかるけれど、そのぶんグッと見栄えが良くなる。
和食は時雨さんの得意料理だし、わざわざ私が作ることもないかと思ったのだけれど、今日に限ってはどうしても和の気分だった。
釜で炊いたほくほくの白いご飯と具沢山の温かいお味噌汁、季節の野菜をふんだんに使っただし香る和の副菜。
日本ならではの家族で座卓を囲んだ食事風景というのは、私にとって温かい家庭像そのものだ。そこに並ぶのは、やっぱり和食が好ましい。
「ええっと、あとは……」
しかしこのキッチンは、昔ながらの日本家屋に似合わずやたら機材が多い。
本格的なオーブンもあれば、多機能電子レンジやポット、どう使うのか分からない電気式圧力鍋、自動調理付きのコンロまで揃っている。
そんなうつしよでも稀なくらい最新設備が整ったキッチンなのに、まったく使った形跡のないものばかりなのは、祖母に料理を教えてもらったという時雨さんが『使い方がわからない』と手をつけないからである。
神さまのくせにとにかく文明の利器が大好きな翡翠とは違い、時雨さんはこつこつ手間ひまかけて作り上げるのが好きなタイプなのだ。
さすがにその辺の価値観の違いに関しては仕方がないとしか言いようがない。最新式という言葉に惹かれた翡翠が目を輝かせて次々に色々なものを買い込もうとするのを、どんな状況でも目敏く見逃さない時雨さんが却下命令を下すのは、もう見慣れた光景だ。