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軽く身支度を整えてから、お手製のハタキで高いところの埃を落とし、六畳一間の部屋と隣の寝室に掃除機をかける。フローリングを艶出しシートで磨き、仕上げに雑巾で細かいところを拭きあげてから、一週間分の不燃ゴミをまとめあげた。
荻野夫婦は私を引き取ってくれる前から長いこと共働きだったため、食事は自分で用意することが多かった。だから料理はそれなりに出来る方なのだけれど、ここしばらくは作る気力もなくて、もっぱら手軽なコンビニ弁当。おかげで不燃ゴミが信じられない勢いで溜まっていた。週に一回しか不燃ゴミの収集がないのは如何ともしがたい。
──それでもおじさんの家では、こんなに溜まったところ見たことないなぁ。
どこか後ろめたい気持ちになりながら、いそいそと外のゴミ収集場に出しに行く。同じアパートの人と鉢合わせるのはなんだか気まずいし、私はあまり人と積極的に関われない体質持ちだ。人の目を気にしながら部屋へ戻り、ふたたび掃除を再開。
せっかくなので布団も干して、三日分たまっていた洗濯ものも一気に片付けた。
そうしてひと段落ついた頃には、あっという間に時刻は昼をまわっていた。
冷凍ご飯を解凍し、昨日コンビニへ行くついでに買ってきた釜あげしらすと混ぜ合わせる。醤油をベースに味の素と塩で味を整えるシンプルな混ぜご飯だ。
そのまま食べてももちろん美味しいのだけれど、あえておにぎりにすると、これが最高に食欲を刺激していくらでも食べられる逸品になる。
さすがに海の街で獲れるしらすは、ふんわりと身が大きく生臭さは一切ない。幼い頃に母から教えてもらったレシピで、私にとっては知識の形見。十八番である。
「ん〜っ! やっぱり美味しいっ!」
あっという間に、大きめのおにぎりをふたつ平らげてしまった。食べすぎかな、と思わなくもないけど、まあ良いか。ちょっと太ったところで、誰かに会う予定もない。
ひとり満腹感に浸りながら上機嫌にお皿を洗っていたら、不意に脳裏にあるものがよぎった。水道の蛇口をひねり、濡れた手を拭きながら押入れの方を振り返る。
「あれもそろそろどうにかしなくちゃだよね……」
引っ越しの際、一番どうするべきか困ったもの。それは両親と祖母の遺品だった。
正確にはそれらをしまっている箱なのだが、遺品にしてはずいぶん量が多く、私ひとりでは抱えるのも大変なくらいの大きさで。引っ越し業者の人に押し入れの奥の方に仮置きしてもらったまま、なにかと理由をつけて今日まで放置してしまっている。
おじさんたちの前でそれを開けたことはなかった。なんとなく、開けてはいけないような気がしたから。そう考えると、最後に中を見たのはもう十年も前になる。それこそ両親と祖母が亡くなったときに残した遺品を泣きながら箱に詰めたとき以来だ。
そのときのことを思い出してしまうのが嫌だった、というのもある。
しかしそれ以上に、あの箱は──。