「ええと、だし巻き卵にお味噌汁、この鮭も焼いていいかな……」


 翌朝、早くに目が覚めた私は、台所を借りて朝食を作っていた。

 昨夜夕飯の手伝いをしたこともあって、だいたい勝手はわかっている。今どきご飯が釜炊きなのは驚いたけれど、コンロもあれば電子レンジや冷蔵庫も完備されているので、全体的にはうつしよのキッチンとほぼ変わらない。

 ちなみに、こういううつしよ生まれの電化製品を取り入れているのは翡翠の趣味らしく、全ての家庭にあるわけではないらしい。まあ個人的には有難いのだけれど、スマホの件といい、いったいどこまで人間くさい神さまなのか。


「あ、そろそろご飯が炊けるかな」


 時雨さんいわく、炊飯器も一応あることにはあるが、お米だけは釜炊きを譲りたくないのだとか。確かにその気持ちはよくわかる。便利ではあるけれど、独特の芳醇なお米の香りとカリカリのおこげは釜炊き特有のものだ。

 そういえば昔、祖母の家でもお釜を使ってご飯を炊いていた。幼い頃からことある事に仕込まれたおかげで、今でも美味しく炊き上がるタイミングが感覚でわかる。まあ、まさかここに来て役に立つとは思わなかったけれど。


「うん、上出来。あとは蒸らすだけだけど……だし巻き玉子も少し置いておけば味も落ち着くし、ちょうど良い時間かな。あと、副菜は──」


 もちろん、今朝の朝食は私が作らせて欲しいと昨日のうちに申し出ておいたから問題はないはずだけど、やはり人の家の食料を使うのは少しばかり気が引けるというもので。

 とはいえ、簡素過ぎるご飯を作るわけにはいかないしなあ……と、ほうれん草のおひたしと湯豆腐を追加。他にも数品簡単に総菜を作り、ほぼ朝食が完成したところで四人分の鮭を魚焼き機であぶり始める。焦がさないようにしなきゃ、としゃがみ込んで真剣に火力の調整をしていたら突如「真澄さん」と声をかけられた。

 驚いてビクッと肩を跳ねさせながら振り向いた私に、いつの間にか起きていたらしい時雨さんが「おはようございます」と朝なのに完璧すぎる微笑みを向けてくる。