「姫っ!」
気がつけば琥珀は叫んでいた。
殺されるかもしれないのだ。わかっているのか?
男は目を細めて琥珀睨む。そしてその足で思い切り蹴飛ばした。
「琥珀っ!」
琥珀は蹴られた腕をさすりながら顔を上げる。
唄姫の生死が関わる以上、下手に抵抗はできない。
「もう一度だけ言う、唄姫。姫が今ここで俺のものになると誓い、ついてくるのならば、あなたの命だけは助けよう」
(姫、頼む。ついていくと言ってくれっ!)
琥珀は既に数人に捕えられ、身動きのとれない状況である。つまり祈ることしかできない。
「私は……」
唄姫がゆっくり口を開く。
「あなたのものには、なりません」
「姫っ!」
何故、何故だ。ただ、貴女に生きていて欲しいのに。
「殺せ」
男は迷いなく言い放った。
命令を受けた者たちにより、唄姫も囲まれる。
「いや、そこの琥珀とかいう忍びが先だ。俺の目の前で殺せ。あと、姫はやはり俺がこの手で殺す。あの美しい顔を俺の手で歪ませてやる」
その言葉が聞こえた瞬間、腹部に激痛がはしった。
思わず押さえた手に、どろりという感触が残る。
よく知った、血の感触だった。
琥珀は戦の中でいくつもの命を奪ってきた。
そのたびに触れた感触と同じものが、自分の体から流れ出ている。
(死ぬというのは、こういう感覚なのか)
急所を狙われなかったところをみると、あくまで苦しませた上で死なせるつもりのようだ。