しかしもっと驚くべきは、次の瞬間でした。

 阿方瑛子は教室で荷ほどきもせずに級友に囲まれている私を見つけると、何も言わず、片目をつぶり、笑って見せたのでした。
 そして黙ったまま、私の前の席にさっと腰掛けたのです。

「ちょっと、どういうこと?」

 ぐいっと級友に顔を引き寄せられ、耳打ちされました。

「仲良くなったの?」
「昨日何があったの?」
 そんな矢継ぎ早に放たれる問いに、ただ私はにっこり微笑んでこう答えて見せました。

「ま、そんなところ」

 ただし私は勘づいていました。阿方瑛子の今し方浮かべた笑みは、微笑みではなく「ほくそ笑み」であることに。