喫茶店を出てすぐのところに小さな稲荷神社がありました。
 その境内の木の椅子に二人並んで腰掛けると、なんだか変な感じがしました。
 だっていつも私は彼女の背中ばかり見て授業を受けていたのですから。
 いつだって私たちは縦並びだったのに、今日は横並びです。
 本当は向かい合いたいところですが……。

「阿方家はね、あなたがたみたいな本当のお嬢さんのおうちとは違って、本物の貴族やお金持ちじゃないの」

 ずっと遠くの方の空を見上げながら話し始めた阿方瑛子はクールでした。私たちF女学院生とは一段違う場所にいる人。そんなオーラを出しているようでした。

「ただの成り上がりなの。東北の貧農の育ちで、上京して事業を興して成功した。ただそれだけ。みんな教養も品性もないような、ただ金を稼ぐことだけが得意な一族。生まれた女子を――つまり私ね――F女子学院みたいな伝統校に入れたのは元々地位のない自分たちに箔を付けるためってわけ」

 彼女の目は諦めというか、クールというか、そのどちらともとれるような潤いのない瞳をしていました。
 自分の一族をそんな風に客観視しなければいけないなんて。そしてそこに至るまでにどれだけの葛藤があったことか。