「何しに来たの」

 彼女は私をクラスメイトだとはっきり認識していました。井嶋皐月という名前であることまで認識しているかは定かではありませんが。

「迎えに来たの。心配しているわ、みんな」

 ふん、と彼女は口の端をつり上げて笑いました。明らかに私を馬鹿にしたような笑いでした。

「脳みそが凍結しているようなお嬢さま連中が? 冗談でしょ」
「……凍結!?」

 むっときました。完全にこちらをばかにしています。
 一瞬、ヒートアップしてしまいそうになりましたが、

「そんなひどい言い方……をしなくてはいけないくらい、つらいの?」

途中で自然と私の口から出る言葉は変化していました。私たちはたったの16歳です。そんな無力な年齢にして家を飛び出し学校に背を向ける。どういう事情があるのか、純粋に聞いてみたくなったのです。

 聞いた阿方瑛子は目を丸くしてじーっと私の目を見つめます。

 数秒後、はーっとため息をついて、
「あんたって本当にいいお育ちなんだね。信じられない」
持っていた煙草を灰皿に押しつけ、雑誌を座席近くにマガジンラックに戻して立ち上がりました。

「場所を変えましょ」

――あ、心を開きかけているわ。
 ほんの少し嬉しくなって口角を上げたことを今でも覚えています。