騒動はきっぱり終わりのはずだったが、三日後、西川代表が謝罪と称して僕の下宿を訪ねてきた。情報元はもちろん奈緒さんであろう。
「ウチの本部並みの古さだな――」と、西川代表は部屋を見渡して感心している。
「まあ、適当にどうぞ」
 座った西川代表は「白い恋人」の包みを差し出してきた。地元銘菓だが、高価なのでめったに口にすることはない、ある意味、盲点の逸品である。
「謝罪を受けるようなことに、心当たりはないんですが」
「まあ、そう言わないで。おかげで騒動が収まった」
「そう、ですか? で、では」
 ありがたく頂戴する。包装紙を開けて――おお、缶入りである――一部はテーブルにそのまま出した。そもそも、他に来客用の茶菓子など常備していようはずもないのである。
 僕の淹れたコーヒーを一口飲んで、西川代表はしみじみと語り始めた。
「昔は、笑わせることが好きだったんだ。私のやることはちゃんと受けていたんだよ。それがある時、他人がやって受けていた動作を真似して友人にやってみたら、全く受けなかった。たまたまタイミングが悪かったのか、相手との相性とかもあるんだけど、コテンパンに言われたんだよ。お前、面白くない、と」
「まあ、そういうことはありますね」
「その後、面白いことをしようとする度に、目の敵のように言われて――逆に私をそういう風に攻撃すること自体が面白い、と受けたのかな。それで、そのことが流行りのようになって。からかうというよりいじめだった。それ以来、人を笑わせる行為をすることに委縮するようになって――トラウマのようになってしまった」
 その辺の話は、なんだか他人事とは思えない切実さを感じる。
「それで、他人に対しては、笑わせることはもちろん、笑うことさえ、それを連想してしまって、だんだん笑わなく、いや、笑えなくなったんだ」
 それでは、元々資質がないということではないと?
「ただ、身内にいたずらを仕掛ける行為、そのことだけは大丈夫というか、笑えたんだよ。なぜだかはわからないけれど」
「身内とは?」
「一番のターゲットは――妹だった」
 つまり、奈緒さんである。