段ボール箱に緩衝材を何重にも敷き、その上に商品の箱をそっと重ねて入れる。今日の商品はどちらも割れ物なので、いつも以上に念入りに包装した。
これまでは質屋と言えば高級ブランドの鞄や小物のイメージだったけれど、実は違うものも多い。
例えば、今日発送のために包装したこれは高級ウイスキーと、有名クリスタルガラスメーカー『バカラ』のウイスキーグラスだった。初めて見たときは飲み物も買い取りすることにびっくりした。
真斗さんによると、リサイクル業をする古物商として営業許可を得るには、それに先立ってどの商品を取り扱うか事前に管轄する公安委員会へ届出する必要があるらしい。
つまり、届け出ていない分類の商品は例えお客様が持ち込んできても取引できず、つくも質店では例えば、骨董品と呼ばれるような美術品は取り扱っていない。
この世界は私の知らないことがたくさんだ。
段ボールの蓋をしてガムテープで止めようとしていると、ガラッと引き戸を開ける音が聞こえてきた。
「お客さんかな?」
私は作業を一時中断して店舗のカウンターへ向かう。
「いらっ──。あ、お帰りなさい」
玄関先にいたのは、飯田店長だった。私と目が合うとにこりと笑い「こんにちは、梨花さん」と言った。
「早いですね」
「思ったより早く終わってね」
出張買取に行っていた飯田店長は、荷物を置くと靴ひもを緩め始める。
郵便が届いていたようで、鞄の横に無造作に置かれた郵便物に混じった絵葉書には室内から撮影した見事な紅葉が映し出されていた。上下を部屋の壁に遮られていることで、返って絵画のような美しさを引き立てている。
「わあ。ここ綺麗ですね」
「綺麗?」
靴を脱いだ飯田店長は、自分の脇に置かれた郵便物の束に目をやり、その絵葉書に気付いたようだ。
「ああ。瑠璃光院だね」
「瑠璃光院?」
「そう。京都の叡山電鉄の「八瀬比叡山口駅」にあるよ。秋の紅葉の季節は一般に公開しているみたいで、とても人気があると聞いたことがあるよ」
「京都か。遠いですね……」
京都というと、ここからだと新幹線で三時間くらいだろうか。この景色の場所は新幹線の駅前ではないだろうから、日帰りだと厳しいだろう。となると、宿泊代もいるから時間だけでなくお金も結構かかる。
行ってみたいけれど、ちょっと厳しそうだ。
「梨花さんは、今年は紅葉を見に行った?」
「この前、真斗さんと上野公園に行く機会があったので、少しだけ見ました。けど、こういう感じではなかったです」
「今ちょうど見ごろだから、見に行って来たらどう?」
「え? ここにですか?」
私は驚いて飯田店長を見つめた。今から? 京都まで?
飯田店長は笑って片手を振る。