近づいてみると、それは神社だった。参道の脇にある掲示を見ると『不忍池(しのばずのいけ)辯天堂(べんてんどう)』と書かれている。七福神の一柱、「弁財天(べんざいてん)」を祀っているという。音楽と芸能の守り神らしいのだけど、『芸能』に文才も含まれるだろうか? 含まれているといいなと思いながら、せっかくなのでお参りしておいた。
 
 その後、参道を逆行するように上野駅方向へと歩いてゆくと、すぐ近くに上野動物園の入り口があることに気が付いた。『弁天門』と書かれている。
 上野動物園には『表門』と『池之端(いけのはた)門』があるのは知っていたけれど、こんなところにも出入りできる門があるとは知らなかった。弁天門からは週末の余暇を動物園で過ごした子供連れの家族が出てくるのが見える。中のお土産屋さんで買ってもらったのか、母親に手を引かれるワンピース姿の女の子は腕にペンギンのぬいぐるみを抱きしめていた。
 
「久しぶりに行きたいなぁ」

 動物園に行ったのなんて、いつが最後だろう。小学校のときの遠足が最後のような気がするから、かれこれ十年近く行っていないことになる。そう言えば、上野動物園でパンダの赤ちゃんが生まれたなんてニュースが以前やっていたことを思い出す。もうあれからだいぶ経つから、あの赤ちゃんもすっかり大きくなったことだろう。

 私は時計をチラッと確認する。辯天堂に寄ったので思った以上に時間を使ってしまったようで、時刻は四時半を指していた。寒さが身に染みるようになってきた今の季節、いつの間にか陽も傾き、西日が人々の行き交う公園の通りをオレンジ色に照らしている。

「これは後日、仕切り直しかな」

 後日ネットで調べて知ったけれど、そもそも上野動物園は午後四時で入園終了らしい。このときはそんなことは知らなかった私だけれど、この夕暮れの時間帯にこれから動物園を回るのは無理だと思って泣く泣く諦めた選択は、結果的には大正解だったようだ。
 つくも質店にお手伝いに来ている限り、また昼間の時間帯にここを寄ることもあるだろう。

 私は周囲を見渡す。なんとなくの人の流れはあるけれど、正確な駅の場所を確認するために鞄からスマホを取り出した。地図アプリを確認すると、今いる大きな上野公園の中には、博物館や美術館もあると表示されていた。

(今度、ゆっくり回ってみようかな……)