あっけらかんと答える真斗さんにちょっと唖然としてしまった。

 私はてっきり、修士課程を修了後は真斗さんがここでフルタイムで働き始め、ゆくゆくはつくも質店を継ぐのだと思っていた。けれど、今の話を聞く限り、真斗さんは自分の希望の進路に進み、且つ、このつくも質店も存続させるつもりでいるらしい。
 研究者ということは、博士課程まで進むつもりだろうか。
 
「欲張りだ」
「欲張りでいいんだよ。できっこないって決めてかかると、人生損する」
「ソウダヨ、ソンスル。マサルハイツモチャレンジャーネ」

 フィリップが首を小刻みに振りながら真斗さんの言葉を真似する。
 フィリップの宿る時計の持ち主である『マサル』なる人が何にチャレンジしているのかは全く持って不明だけれど、フィリップは真斗さんの意見に賛成らしい。

 私は言葉を詰まらせた。

 できっこないって決めてかかると、人生損する、か。

 確かにそうかもしれない。
 いつの時代だって、大きく羽ばたいて行った人は、多くの人が無理だと笑うようなことに果敢にチャレンジし続けた人達だ。つい一〇〇年前の人達は、今の時代の当たり前が当たり前ではなかった。

 ノーベル賞を取るような学者さんだって、若い頃は『こんなことはできっこない』と周囲から笑われた人もいると聞いたことがあるし──。

 そこまで壮大な話ではないにしても、私にできるチャレンジといえば、なんだろう?

 お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが元気なうちに、もう一度どっかの小説コンテストで受賞したいな、という思いが沸き起こる。まだなかなか以前のように手は動かない。
 けれど、いつか、ほんの小さな賞でもいいから、もう一度「梨花はすごいなぁ」と言って笑う祖父母の顔が見たいと思った。