「武原さん、雨って好き?」
 私の唐突な質問に「え?」と不審な顔をした。

「好きではないかな……?雫と旅行に行くと雨がよく降るし、仕事前にテレビで雨予報が出ると、今日は出先に行かなきゃいけないのについてないとか思うし」

 それを聞いて、私はフフフと笑った。

「私もね、雨が大嫌いだった。でも、さっきも話したけれど、快晴が言ってた。『雨は嫌なことを洗い流してくれるから俺は好きだ』って。それから雨が好きになった。快晴が死んだ時からしばらくは、また嫌いになったけれど、今は好きだよ?今日の雨も、いつか二人で言うんだよ。『プロポーズの日に雨だったね』って。二人で笑うのよ」

 私の言葉に武原さんは真っ赤になる。図星をつかれたって顔。いやいや、誰だってこんな普段は絶対行かないような高級な店に休みまで取って来てくれと言われたら、だいたい想像がつくだろう。

 真っ赤になりながら、武原さんはポケットから指輪ケースを出した。出したのはいいけれど、テーブルにドンと置いて私に押し付けてくる。

「もしかして怒ってるの?」
 私が困っていると、今度は拳をテーブルにドンと打ち付けた。

「それは、俺は一応ライターだしデザイナーもやっているから半年前からデザインを考えた指輪だ。開けてみろよ」

 そう言われてケースを開けると、青みがかった小さな宝石が散りばめられている可愛い指輪がある。

「可愛い……素敵だね」
 私は素直に思った感想を言った。

「雫が今日これを受け取って、俺がプロポーズして笑顔で頷いてくれるって思いながら浮かれてきた。だけど、雫の話を聞いたらダメだ‼」

「それはプロポーズはなしってことですかね?」

 まあ、あんなに長ったらしい、しかも楽しくもないだろう話を聞かされたらそうなるのかもしれない。私は武原さんに快晴のことを知ってほしくて、初めて征規や春那以外に話したのだけれど。それもかなり勇気を出したて。けれど、その気持ちがわからないなら仕方ないのかもしれない。

「違う‼」

 お水を取り替えにきたウエイターもビクっとなるほどの声で言う。
 もう何がなんだかわからなくなってくる。