このお店に来たのは11時半くらいだったけれど、もう時刻は3時を過ぎている。
食事も終わり、私の長い話を聞いているものだから、コーヒーのおかわりを三杯もしてしまった。
「随分時間経っちゃったね、ごめんね」
腕時計を見ながら私は言った。
彼、武原さんは神妙な顔をしている。
きっと彼の中の予定はこんなはずではなかった。
プロポーズをオシャレな店でしてくれて、私が喜んでオッケーして、とてもハッピーな一日になるはずだっただろう。
申し訳なく思うけれど、彼と一緒になるってことは快晴のことを知ってもらわなければいけない。
窓を見ると雨はもうすぐ上がりそうだ。話をしている間、シトシトとだけれど結構降り続いていた。
快晴がそうさせているのか?それはわからないけれど、何かあると雨が降る。私はそれをいつも快晴がそばにいると思って過ごしてきた。
テーブルの端に置いていたハンカチをそっと開く。
この場所には似合わない手作りの下手くそなお守り。
大学受験のために私がみんなに作ったもの。
事故当日に快晴は持っていて、青いお守りは血だらけになってしまった。
遺品として私の元に戻ってきたこれを、ハンカチに包み、私はずっと肌身離さず持っている。
約10年の歳月で血で真っ赤だったお守りは黒い色に変色していた。
ハンカチを閉じて、武原さんを改めて見た。