五月になり、授賞式当日。
それなりのドレスコードで行くのだけれど、春那や征規に話をしたら行きたいという。
自分の家族などもゲストとして招待できるから、お父さんと杏奈、来るのは無理かもしれないお母さんには送ってある。
春那たちは武原さんの口利きで入れてもらった。
「さすが化粧品会社だね、サンプル化粧品山のようだよ。さっき係の人紙袋くれた」
どっさり入ったサンプル入りの紙袋を見て笑ってしまう。
征規は立食パーティーでどこぞの女子と爽やかを装て話をしている。
「お姉ちゃん」
声に振り返る。杏奈が手を振りながらそばに来る。その後ろにはお父さん。そして……。
「お母さん?」
数年ぶりに会うお母さんは長い髪を結って、ワンピースを着ている。
「お母さん⁉招待状は出したけど、こんなところに来て大丈夫?眩暈は?吐き気は?頭痛は?」
お母さんが何か言う前に私が慌ててまくしたてるから、お母さんがプっと吹き出した。お父さんの笑う声も聞こえる。
「雫、大丈夫よ。薬も飲んでいるし、行けるからここにいるんだから」
「あ……そうか、そうだよね」
私は安堵のため息をついた。
「さっき杏奈とお母さんと三人で雫の作品みてきたぞ?よかった‼ほかの作品と全然違うんだな。一番良かったってみんなで言った。大賞取れないのは悔しいけど、受賞おめでとう‼」
お父さんと杏奈に拍手されて恥ずかしくなる。
「このあと表彰とインタビューあるんだっけ?」
「うん、せっかくきてくれたのにゆっくり話出来なくてごめん。お母さんだって外に出ることは大変だったよね?」
私がお母さんを見てもニコニコしている。
「こうして、外に出れるってことは雫や杏奈に会えるようにまで体調が良くなっている証拠。杏奈は九州だからもう少し会いに行くには時間がかかりそうだけれど、雫には許可さえ出れば簡単に会えるわね。だから気にしないこと」
そう言って、私の肩に手を置いて笑顔だ。
「そっか、そうだよね」
私も笑顔を返す。
授賞式を見たら帰るという三人にお礼を言った。お父さんも杏奈もウキウキしている。
歩いて去って行こうとする時に、お母さんが振り返って、急いで私の耳に耳打ちした。
「そうかな?そう見える?」
「私にはそう見えるわよ」
と微笑んで、お父さんたちと歩いて行ってしまった。
お母さんが言ったこと
『心の雨はかなりやんでいきていて、うっすら虹が見えている気がするよ』
だった。