ジュースとお菓子を置いて、線香をつける。
線香の煙をしばらく見ていたけれど、上を向いて『大津家』と彫られた文字を見る。
「快晴」
名前を久々に呼んだ。
高校生の頃は「快晴はさー」「快晴って本当に……」といつも呼んでいた名前。
「快晴、久しぶり」
小さな声になったけれど、呼んだら涙がポロポロと出てきた。
会いたかった。でも、会いたくなかった。
矛盾しているけれど、そうだった。
「ごめんね、遅くなって。二年も待たせてごめん」
冬空だけれど、陽射しは出ていたのに暗くなった気がする。今日は寒くはないけれど、空を見ると、雪が降りそうというよりも雨が降りそうな雲が出てきている。
改めてお墓に視線を戻す。
「逃げてごめん。快晴がいないことが怖かった。信じたくなかった。認めないことで私は前を向けると思っていたんだ。だから快晴のことは、思い出も全部蓋をしたの」
今、私と向き合っている快晴は何を思っているのかな?
薄情だって怒ってる?
おせーよ、バーカって言ってる?
それとも、頑張ってよく来たな。って思ってくれてる?
ポツっと水が顔に当たる。
小雨が少し降り始めてきている。
快晴と何かあるときは雨ばっかり。
雨が好きな快晴。
私のお母さんとの問題が少しだけ解決に向かった日も雨が降っていた。外で手を振ってくれたお母さんの上に薄っすらだけど虹が出た。
虹が出ていたのを教えてくれたのは快晴だったね。
私が生まれた日も雨だったとお母さんが言った。雨は憂鬱にさせるばかりではない。恵の雨って言葉もある。お母さんはそう言った。
快晴がキッカケで雨が少しだけ好きになった。
でも、快晴が事故死した時も今みたいに季節外れの雨だった。
だから雨が嫌いになった。
昔みたいに足元が濡れるからとか、前髪がうねるから嫌だとかじゃなくて、雨の日は快晴のことを生々しく思い出すから嫌いになった。