そんなことがあって、今に至る。
細かった道が突然拓けてきた。左右を見ると、お墓がたくさん並んでいる。
「着いたぞ」
駐車場に車を停めて、征規が言った。
「快晴に会うのは冬になる前だから、結構間があいちゃったねー」
後ろの席でうーんと言いながら身体を伸ばして春那が言う。
「ねえ、こんなにたくさんお墓があって、快晴のお墓の場所わかるの?」
私の素朴な疑問に二人はキョトンとしている。
「雫は来たことないからな。俺たちは定期的に来ているから、もう目をつぶってでも快晴の墓の場所わかるわ」
「あ……そうか。そうだよね」
改めて私は酷い親友なのだと思い知った。
あらかじめお花屋さんに予約をして用意した花と、快晴が高校生の頃にハマって飲みまくっていた炭酸のジュース、好きだったお菓子を持って、管理室の前に並んでいる水を入れる桶を持った征規と、鼻歌を歌っている春那の後を歩く。
この炭酸ジュースの何がそんなに美味しかったのかわからない。すすめられて買って飲んでみたけれど、二度と買うことはないと思った。
好きだったお菓子は激辛のものばかり。そのくせ唐辛子が入った食事は嫌い。本当に変なやつ。
結構奥の方まで歩いて段々畑のように斜めだけれどきちんと並んでいるお墓を通り過ぎる。ほとんど下段と言っていいくらいな下の方まできて、征規は足を止めた。
「ここ」
征規が指をさした先にはなぜか一本だけ生えている大きな木のそばにある何個か並んでいるお墓の一つに『大津家』と書いてある。
「この木が目印。覚えておいた方がいいよ。来るのに慣れるまではこれが目印だからね」
春那がそう言って、快晴のお墓に近づく。
「快晴―、また春那様がきてやったぞ。喜べよ。あ、嬉しすぎて泣いてるんじゃないの?」
ケラケラと笑いながらお墓をベシベシと叩いている。
「まあ冬だから雑草もないし、掃除はいいか」
征規が言いながら水の桶をそばに置いた。
「水かけたら凍らない?」
「最近寒いから怪しいな。石は凍らないだろうけど、一応持ってはきたけどいらなかったかな?」
二人は快晴のお墓の前で当たり前のように普通に日常的な会話をしている。
でも、私は征規が「ここ」と指さした場所から動けない。
少し距離のある場所で『大津家』と書いたお墓を黙ってみていることしかできない。