今日、ここに来るまで、私は成人しているくせに子供のように「嫌だ」「行かない」「連行するつもりなら友達やめる」など幼稚な言葉を言いまくり、二人を困らせた。

 征規は会った時と同様に、自分と快晴を救えと説得し、春那も同感だと言った。

 征規に言われた時に心が揺れたけれど、やっぱり行きたくない。行くのが怖い。

 アパートにまで乗り込んできた二人に文句を最初は言っていたけれど、あまりにしつこいからブチっと切れてしまった。

「うるさい‼嫌だって言ってるでしょ?なんなの?本当にしつこい‼快晴の死なんか認めたくないって何回言えばいいの?いい加減にしてよ‼」

 そう言った私の頭を春那がゲンコツで思いきり殴った。
 相当な力で殴ったのだろう。ものすごい音がして、頭が激痛とともに衝撃の余韻でグラグラとし、視界もチカチカした。
 殴った方の春那も手が痛かったのか、手をさすりながら私を睨んでいる。

「ふざけんなよ、お前」
 春那が涙声で言った。

「私たちがどれだけ雫を心配しているかわかる?お前が快晴のことを、これから先の人生も暗くて悲しい過去として引きずりながら生きていくしかないのかもしれないとか、いつまでも抜け出せないで苦しんでるとか、友達だから救ってやりたい気持ちを馬鹿にしすぎてる。お前は悲しい過去の余韻にいつまでも浸っているけど、人生はまだまだ終わらないし、歳も取るんだよ‼逃げてばっかりのお前は快晴に失礼なことしてるんだよ‼自覚あんの?快晴のことまで馬鹿にする気?そんなの絶対許さない‼」

 ポカーンとしながら最初は聞いていた、何より殴られた頭が痛すぎるし。
春那が私に怒鳴りつけるのは初めてだ。

いつも快晴のことで怒るのは征規で、春那は間を取り持つように征規にも私にも気を使ってくれていたから。今、まくしたてた言葉が春那の本当の気持ちなのだと思う。

「ごめん……」
 と私は言った。

 征規だって春那だって快晴の死は辛いはずなのに、ちゃんと一周忌に参列して、時々お墓参りをして、快晴のことを自分の中で解決しようとしている。

 私みたいに蓋をして逃げようとなんかしていない。ちゃんと向き合っている。そして前を見ている。見ようと努力している。

 逃げることで、蓋をすることでなかったことにして、大学やバイト先でヘラヘラとしている私なんかよりずっと快晴を想っている。

 恥ずかしい、自分が。

 征規や春那にはもちろんだけれど、それよりも一番快晴に対して失礼だ。酷いことをしている。[親友]のくせに最低だ。

「わかったなら、一緒に快晴のお墓に来なさい。そして快晴にしっかり謝って、自分も快晴もちゃんと救いなさい。これは命令だからね」

 そう言った春那は手をさすりながら「本気でぶん殴ったからマジで手が痛い」とも言った。

「殴った時、すげー音したな。春那の手も痛いだろうけど、雫の頭割れたんじゃないか?」
 征規が呆れたように言った。