ひとしきり笑った後に「春那も呼べばよかった」と二人で言った。
「でも、春那と三人はまだ少し寂しいな」
征規がポツリと呟いた。
「そうだね……一人足りないよね……」
ジョッキを両手で持ちながら私も言った。
「雫。三回忌来ないんだろ?」
やっぱりその話になるよね……。
「うん。行かない」
私は頷いた。
「一周忌の時、俺は悲しいのはみんな一緒なんだし、来ないお前を最低だとか薄情だとか思ってた。多分その時、春那も思ったはずだ」
「そう思われても仕方ないよね」
「でも、俺のバカな頭で考えた。お前は来ないんじゃなくて、『来れない』。そうだろ?」
征規を見ると頬杖をついて、だしまき卵をつついている。
「征規、あのね」
初めて言う。自分の気持ちを。なぜ行けないのかを。
「怖い。だって行ったら快晴の死を認めてしまう。私は快晴がすごく大切で親友なの。快晴も私を親友だと言ってくれた。こんなに辛い思いをするなら認めなければいい。快晴の死にリアルを、真実を感じなければいいと思った。快晴は遠くにいる、今でもこの世界のどこかにいる。そう思わないと私は二度と前を向くことも笑うことさえできない。だから、本当は行くべきだってわかってる。でも行ったら私は壊れてしまう。……こんなこと思っている私はすでに壊れてしまっているかもしれないけど」
私の言葉を征規は黙って聞いている。
「征規ごめん、春那にも、快晴のご家族にも本当に申し訳ないと思ってるよ」
「いや…?俺は別にいい」
ビールを一口飲んで征規は続けた。
「雫。やっぱり快晴に会いに行こう。三回忌じゃなくてもいい。そうだ、来週の週末にでも。春那と三人で行こう」
「だから征規、私は……」
「だからだ」
私の声を遮って征規は強く言う。
「そのままじゃお前は一生、快晴の死から解放されない。そして死んでしまった快晴もお前に申し訳なくて解放されないんだ。お前だけのためじゃない。快晴のためにもだ。親友ならお前が母親のことで快晴が救ってくれたように、次はお前が自分と快晴を救え」
「私が快晴を救うの……?私自身も救うの?」
「そうだよ、もう快晴を解放してやってくれ」
そう言って征規が私に頭を下げた。