昼休みになっても快晴の言葉が頭の中をグルグルと回っていて、購買のパンを持ったまま考えてしまう。
「食べないの?」
春那が言って我に返る。
「あ、食べるけど」
「なんかあったの?」
春那に言っていいのだろうか?
快晴から見て、私は嘘をついているらしい。
それが本当だとして、無意識に嘘をついているかもしれない。その相手が春那だったら?そう思うと言えない。
「別になんでもないよ」
ヘラっと笑ってパンをかじる。
「そう?快晴と隣になってストレスで疲れてるんじゃないの?」
快晴の名前を聞いてドキリとなる。
私のためってなんだろう?
春那を見ると、雑誌をめくりながらお弁当を食べている。私たちはお喋りに夢中になることはあまりない。春那もそういうタイプではないから、お互い居心地がいいのかもしれない。
教室の真ん中では、征規と快晴がクラスメイトと話しながら爆笑している。快晴は爆笑してはいないけれど、口角が少し上がっているから一応笑っているのだろう。
「春那」
そんないつもの情景を見ながら、私はポツリと呟いた。
「ん?」
「春那って快晴をどう思う?」
パラパラと雑誌をめくっている音が止まる。
「は?なにそれ?」
そして春那の呆れた声。今日は色んな人に呆れられてばかりな気がする。
「春那が男の子として快晴や征規を見ていないのは知っているけど、そうじゃなくて、春那から見て快晴ってどんな人?」
「うーん?何でそんなこと急に聞くのかよくわからないんだけど」
「征規はさ、もう腐れ縁すぎて、腐っているを通り越して一緒にいるのが当たり前なんだけど、快晴ってイマイチわからないんだよね」
春那の視線を感じて、征規たちから目を離した。ジッと私を見ている。
「快晴を好きとか?……はないよな。あるわけないのはわかってるよ」
「あったら自分で自分が怖いわ」
私の言葉に春那は笑い出した。
「わかってるって。……快晴かー、そうだなー、嫌いじゃないね。むしろ好きな方。征規も同じだけど。素で話せる数少ない友達だからね」
「うん」
「雫は快晴が苦手みたいだけど、私はいいヤツだと思うよ?前にグループトークでウザい男につきまとわれている話をしたら、征規も快晴も真剣になって、そいつを撃退してくれたから。だから私は二人ともいいヤツで好きだよ」
そういえばそんなことあったな……
一年生の始めの頃は快晴も征規も取り合わないくらい軽いものだったけど、それからしばらくしてまた違う男子が言いよってきて、当事者じゃない私もストーカーじゃないか?と気味悪かった。
春那が困っているって言ったけれど、当然ながら可愛く助けてほしいのとは言っていない。むしろ邪魔くせーんだよって言っていたくらいだったし。征規たちが近づかないようにその人に言ったんだ。快晴の威圧感で逃げたらしい話を後から征規が言っていた。
征規は正義感が強いタイプだから当然、春那を助けるのはわかっていた。でも、そんな征規よりも快晴の方が春那が迷惑がっていることに怒っていたらしい。
私のことは嫌いだと思っていたから、春那を助けるのは友達として当然だと思っていた。
もしも、私が春那みたいに困っても征規は助けてくれても、快晴は知らない振りをするであろう。間違いなく。
さっき快晴は私を嫌いではないと言っていた。じゃあ、あのラインや、今までの態度は何なのだろう?
「博井さーん」
教室のドアの向こうから男子が春那を呼んだ。隣のクラスの人だっけ?
「はーい」
春那が笑顔で返事をする。
「告白ですか?相変わらずモテますねー」
私が言うと、春那はこっちを見て「好みじゃねーよ」と悪態をついてからドアに向かった。