「お疲れ様でーす」

『ルームA』と書いた部屋へ入る。

 受験の日、試験の1時間間半前に到着した私が当時副部長だった武原さんに案内された部屋。

 合格した私はあの時言った通りに、ここのサークルに入った。『半夏雨(はんかう)』という名前が正式なサークル名。
 農作物、主に田んぼの神様が天に昇る神々しい雨。という意味らしい。

 依頼された作品のクレジットに使うためにある名前。農作物は作品を作るという意味も含めてこの名前らしい。普段は「ルームA」と呼んでいる。雨なんてつく名前のサークルに少し胸が痛んだり、本当に快晴の時から雨に縁があるんだな、と思う。

「雫ちゃん、ちょうどよかった」

 サークルの女性の先輩が手招きをする。なんだろう?と思いながら近づくと、机にポスターを広げている。

『○○社 広告大賞』とデカデカと書いてある。○○社は大手の化粧品の会社。

「へー、こんな大きな会社なのに広告大賞とか公募するんですねー」
 荷物を置きながら、募集要項を見た。

「今回は夏前に発売する制汗剤の広告を募集しているみたいなんだ。ほら概要に中高生をモデルとした作品の広告を募集って書いてあるでしょ?」

「中高生ねー、制汗剤だから部活の子とか、女子がターゲットなのかなぁ」

「部長が、武原がね、個人ずつ応募してみようって言って、雫ちゃんも応募しない?武原は結構、雫ちゃんを評価しているんだよ?」

「は……?」


 私が会った時には副部長だった武原さんは三年になった時に部長になった。今は四年生、間もなく卒業するから、そろそろ次期部長が決まるだろう。

 就職も三年の終わりには大手の広告会社にライターとして決まっている。

 私が初めて会った時に見たシャンプーの広告は『半夏雨』として出してはいるけれど、武原さんの作品らしい。才能があるっていうのは羨ましいものだ。

 私はまだ二年生だし、興味はあっても知識があまりないから、文字起こしや備品の調達やその管理などの雑用をしている。

「うちのサークルは面談してからじゃないと入れないじゃない?でも、雫ちゃんは武原が絶対入れるって面談なしで入ったんだから。二年生は雫ちゃんだけだし。雫ちゃんに武原は期待しているんだよ。もちろん一年生にいいチャンスだけど」
 先輩が髪をかきあげながら笑顔で言う。

「いや、そもそも広告作るっていう知識もないし、センスもないですよ?」
 私も笑いながら言った。

「これを機会に応募してみようよ。雑用するためにうちに来たわけじゃないんだから」
 先輩はそう言うけれど、私に広告を作るセンスなんかあるわけがない。