花びらが顔に落ちてきて我に返る。
 なぜ、あの旅行のことを今思い出すのか。

 大阪のテーマパークも楽しかったはずなのに京都と奈良のことだけこんなにも鮮明に覚えている。
 旅行帰りにみんなで受験が終わったらまたどこかへ卒業旅行しようと約束した。
 本当は卒業旅行をするはずだった。杏奈に会いたいから九州に行こうとみんな言ってくれていた。

 顔についた花びらを取ると、頬が濡れている。気づかないうちに私は泣いていたようだ。

 バッグから小さめのポーチを出した。その中には清水でみんながくれたお守りが入っている。私が受験前に太宰府天満宮のお守りの他に手作りしたのは、このお守りをみんながくれた感謝の意味もあった。杏奈もお父さんも快晴からのお守りを今でも大事にしている。
お母さんにも送ったけれど返事はなかった。
でも、快晴が亡くなった時にくれた手紙に感謝の気持ちを込めていたのかもしれない。

 ポーチの中にハンカチにくるんだお守りがもう一つある。私が快晴にあげた手作りのお守り。快晴のご家族が遺品としてくれたものだ。あの時、血で真っ赤になってしまったお守りは少し変色して黒に近い色になっている。
快晴にあげたものが私に戻ってきてしまった。

「早死になんかしないって言ったのに、次の年には死んじゃったじゃん、嘘つき」
 ポーチを見ながら呟いた。

 快晴は嘘なんかつかないのに。
 なんでいなくなったの?

 やっぱり今、私がいる世界は嘘か夢の世界で快晴はどこか遠くで元気に過ごしているかもしれない。

 嫌だ。こんな思いばっかり。

 思い出す記憶の快晴は元気で笑ったり皮肉な冗談を言って喧嘩したり、でもすぐに仲直りした。春那も征規も一緒に笑っていた。

 辛い、苦しい、痛い。

 やっぱり快晴との思い出は心の奥にしまわなきゃ。
 快晴はどこかで元気に生きている。そう思えば辛くない。
 私の世界では快晴は生きている。それでいいんだよ。

 桜の花びらが舞い落ちるのをもう一度見て、そう思うことに決めた。

 どのくらいここでぼんやりしていたのだろう。
 腕時計を見ると、入学式の始まる時間はとっくに過ぎていて、私は行くのをやめて引き返した。お父さんも仕事で来られないのだから別に参加しなくてもいいだろう。

 早く家に帰って安心したい。

 外の風景は快晴との思い出をたくさん思い出してしまうから。

 引き返す私は早歩きになっていた。