電車に乗って春日大社に着いた頃には夕方近くになっていて、春那は「私、真剣に祈願したいから別行動するから!」と走って行ってしまった。

「アイツどんだけ必死なんだよ」
 快晴が呆れながら言った。
「理想が高いだけで、春那みたいな可愛い子はすぐに彼氏出来そうなんだけれどね」
 私は走って行く春那を見ながら言う。
「まあ顔が可愛いのだけは認めるけど、性格に難ありだから彼氏出来ないんだと思うけどな。神様も『あなたの願いは叶えられません』って言いそう」
 征規がそう言って快晴も頷いている。

 私たちもそれぞれ別行動で見て回ることにした。
 のんびりと散策していた私は、大きな桜の木の下で足を止めた。桜は満開で綺麗だ。

 突然、強い風が吹いて風に思わず目を閉じてしまったけれど、風が弱まって目を開けると、風に揺られた桜の木から大量の花びらが降り注ぐように落ちてくる。
 舞い落ちる桜の花びらは綺麗だけれど、それを見て、なぜか私は不安になった。不安というよりも少し怖くなった、という気持ちが正解かもしれない。胸の奥にチクリと不安と怖さが刺さる感じがした。

「雫、ここにいたのか」
 快晴の声が聞こえて振り返る。風は弱まったけれど、そよそよと吹いていて花びらは舞い落ち続けていた。

「おー、すげーな。『桜の雨』って感じだな」
 舞い落ちる花びらを見ながら快晴は言った。
「桜の雨……?」
 私は改めて落ちてくる花びらを見た。
「雨は水だけじゃねーってことだな。こういう雨も悪くないな」
 笑いかけてくる快晴が私を見て不思議そうな顔に変わった。
「どうした?そんな泣きそうな顔して」
「え……?私、そんな顔してる?」
「ここは『快晴って意外にロマンチストなこと言うんだね』って笑うところなんだけど」

 花びらを眺めながら私は呟いた。
「なんか……、この情景怖い。たくさんの花びらが舞い落ちるのはすごく綺麗なんだけれど、綺麗すぎて怖いって言うのか……不安になる。なぜそう思うのかはわからないけれど」
 私は思っていた気持ちをそのまま言った。
 それを聞いて快晴が笑う。
「お前、清水で俺が早死にするとか言うからビビってるんじゃねーの?」
「は?なんでよ」
「雫は脆いところがあるから、あの時ふざけた俺の姿がまだ怖いとか思っていそう。そして怒って言った言葉を未だに気にしていそうだな」
「そんなことないよ。もう怒ってないし、気にしてないよ」
 私が反論すると、私の背中を叩きながら快晴は笑っている。
「俺は早死になんかしないから安心しろよ。まだまだやりたいこともあるし、そう簡単には死なねーから。気にすんなよ」
「だから気にしてないってば」
 私もつられて笑ってしまう。

 この『桜の雨』が怖いと思ったのは、今が幸せすぎるからかもしれない。

 夢も希望もなかった私がみんなのお陰で前を向いて歩こうと思えるようになったから。
 生きている実感が沸いて、それが幸せだから。幸せすぎて怖くなったんだ。