高校三年生になる前の春休み、四人で旅行をした。三年生になると受験勉強で遊べなくなるからと、征規が考えたことだった。

 お母さんとの問題も無事に済んで落ち着いてきた私も、快晴も春那も大賛成して、どこへ行こうかと盛り上がりながら計画を練った。

 征規と快晴が大阪のテーマパークに行きたいと言って、行き先は大阪に決まり、どうせなら京都、奈良にも寄ろうという話になった。
 奈良に寄りたいと言ったのは春那で、春日大社で彼氏ができるようにお参りをしたいからだった。
 春日大社だけ行くのはもったいないから京都で清水寺なども見たいと言ったのは私だ。

 征規と快晴は「寺巡りかよ!!」と文句を言ったけれど、二泊三日のうちの一日を日帰りで京都と奈良に行く!という春那の威圧で決定した。
 私はテーマパークより京都のお寺巡りの方が実は楽しみだった。


 飛行機が春休みということもあり、なかなかチケットが取れなくて、旅行日は新学期が始まる本当にギリギリな日になってしまった。四月の最初の週に飛行機のチケットは取れて、旅行が終わって三日後には始業式。

 大阪で遊び倒したい快晴と征規の計画で初日に京都と奈良に行くことになった。

 旅行当日は朝6時過ぎ、早朝の時間の飛行機に乗って、飛行機と京都へ行く電車の中では早起きしすぎで四人とも爆睡していた記憶がある。

 京都では時間の都合もあるから、清水寺、金閣寺など修学旅行で行きそうなメジャーな観光をした。
 私たちの高校の修学旅行は京都や奈良はコースに入っていなかったから、寺巡りがかなり新鮮だった。寺と寺が密集している気がしたし、お土産屋さんも密集。

 春日大社は奈良県になるけれど電車で1時間ほどで着くから、閉館ギリギリに行こうと決まっていた。

 どのお寺も桜のシーズンでものすごくきれいで、写真ハガキがそのまま目の前にある気分になる。桜とお寺を見に来ている人も多く、きっと紅葉もすごい迫力なのだろうなぁと思った。
 お寺巡りに文句を言っていた快晴と征規も桜とお寺の情景に感動していたようだった。

 金閣寺は教科書に出てくるそのままの姿で、みんなで「教科書と一緒!!」と盛り上がった。
「ていうか、マジで金ピカじゃね?お前らは知らないと思うけど、金は高く売れるんだぞ?売ったらいくらなんだろうなー」
 と、征規がバカなことを言って、
「金閣寺は世界遺産だよ。バーカ。売れるわけねーだろ。捕まるぞ?清水寺も春日大社も世界遺産だ。征規、これ建てた人物もわかんないんじゃないのか?」
 快晴が呆れた顔をしながら答えた。
「え?誰だっけ?織田信長じゃないな……伊達政宗も違うよなー。戦国時代?何時代の誰だっけ?」
 征規がまた更におバカ発言をしている。
「足利義満!!室町時代だよ!!本当にバカじゃないの?アンタ大学落ちるわ、絶対。どうせ銀閣寺も誰が建てたか知らないんだろうな!!」
 春那がそう言うと、少しムッとしながら征規が反抗する。
「その足利義満って奴が建てたんだろ?金の次は銀だよなーって。あ、お前ら知ってるか?銀閣寺は銀色ピカピカじゃねーんだぞ?予算オーバーだったわけよ。知らなかっただろ?」
「そういう説もあるな。変なところが冴えていて怖いわ。でも建てたのは金閣寺から百年後くらいに義満の子孫の足利義政な。義満は三代目将軍、義政は八代目将軍」
「そして銀閣寺も当たり前に世界遺産だからね!!」
 快晴が解説した後に春那が続いた。そんな二人に征規は「寺マニアなのか?お前ら」と言って、金閣寺を巡っている間もずっと快晴と春那は征規に「バカバカ」と言っていた。
「雫も知っていたのかよ」
と、征規に言われたけれど、
「当然知っているよ。日本史の初歩的な勉強だし。中学にはもう勉強しているよ……。征規、室町時代の勉強が頭から抜けてるの?日本史の成績大丈夫?」
 何を言っているんだか。と呆れ返ってしまう。

 けれど、征規は小学生の頃から基本的にバカだけどテストなどの大事な局面では有り得ない結果を残すから、成績もそんなに悪くもないことを実は私はよく知っている。だから、呆れながらも二人に文句を言われている様子を少し笑いながら見ていた。