大学の入学式の会場へ向かう道を歩いていると、突風のような強風が吹いた。

 歩道の横に並んでいる桜並木が風に揺れて花びらがまるで雨のように降りしきる。

 それを見て、私は大学へ入学するのだから四月だと理解しながらも、快晴がいなくなって季節は変わり、二か月が経ったことを今知ったという感覚になった。

 高校の卒業式がどんな感じだったとか、卒業する寂しさや悲しみがあったのか。多分、何も感じなかったと思う。快晴のお母さんが快晴の分の卒業証書を涙を流しながら受け取りに来たのをぼんやりと眺めていた。

 そして、快晴のお母さんが「今まで本当にありがとうね。いつでも遊びにきてね」と言ってくれた言葉を征規と春那と聞いていた。春那と征規は泣いていたけれど、私は時が止まったままで、実感もなくて嘘の空間にいる気分だった。それだけはハッキリ覚えていることだ。それしか覚えていないと言っても過言ではない。
 今でも嘘の世界にいるのではないだろうか?と思うことが多い。

それからどうやって春那の家から一人暮らしをするアパートに引っ越しをしたのか、今日までどうやって過ごしてきたのかが曖昧でよくわからない。アパートは春那の家から一駅の近場だから、引っ越しの手伝いには征規も来てくれて手伝ってくれたし、二人にも頻繁に会っている。

 会っているというよりも、私が外に出なくなってしまったから心配で様子を見に来てくれているのはわかっている。二人だって辛いのに。
 わかっているのに二人に感謝や思いやりを伝える気力は全然ない。申し訳ないと思いながら。

 買い物以外で久々に外に出たのが今日であり、大学の入学式。
 私は桜の花びらが雨のように舞い散る様子を見ながら一年ほど前のことを思い出した。