少しだけ一人になりたい。

 そう言って、快晴の眠る部屋を出た。

 征規も春那も泣いていたけれど、止めてはこなかった。二人はまだ快晴のそばにいる。

 ここに救急搬送されたのだから、近いはずだ。
 タクシーを拾って、場所を告げた。
 10分くらいで目的地についた。

 走って、門を抜けて、張り出されている掲示板の前に着いた。息が上がる。まだ結構人がいた。喜んでいる声や落ち込んで帰る人が色々と。

 快晴の荷物から勝手に持ってきたメモを見ながら目で追う。
 天文学部がある市内でも珍しい大学だ。
 天文学部と書いた下にずらりと並んでいる番号を確かめる。血がついたメモと掲示板を何度も確認しながら、順番に探す。

「あった……」

 快晴の受験番号が書いてある。
 快晴は合格していた。

 きっとニヤって笑いながら、私たちに報告するはずだったんだ。

「快晴、おめでとう……さすがだね」

「当たり前だろ?俺を誰だと思っているんだよ」
 そんな声が聞こえてきそう。

 少しだけ笑いながらメモを握りしめていたけれど、涙がボロボロと出てくる。壊れた水道の蛇口のように流れ続ける。

 私は堪えきれずに、人がたくさんいるのも気にせずに大声で泣いた。

 この世が終わるんじゃないかっていうくらいに悲鳴に似た声を上げて泣いた。

 周りが私をどう見ようと、どうでもいい。

 合格を確認して嬉しかっただろう快晴を思うと、ベッドで眠るようにもう二度と動かない快晴を思うと、そして
『お前は親友』
 と、ニヤって笑った快晴を思って思いきり泣いた。

 私の異常な状態を聞きつけた大学の人が来ても、声が枯れるまで泣いた。


 悔しくて、辛くて、苦しくて、心が引き裂かれると思うほど悲しくて、快晴のこれからの未来を返してほしくて、私はたぶん壊れてしまったのかもしれない。

 快晴を連れて行ってしまった雨なんか大嫌いだ。私のことはずぶ濡れにしたっていいから快晴を返してほしい。


 私の親友を連れて行かないで。

 私はこれからどうすればいいの?

 快晴がいないと何が正しいとか、何が嬉しいとかわからない。

 一緒に笑えない。悩めない。

 お願いだから連れて行かないで。
 私の腕や足でいいなら、身体のどこでも持っていってもいいから、快晴を返して。

 私の大事な一生の親友を連れていかないで。