ベッドにいる快晴は頭に包帯を巻いているけれど、眠っているようだ。身体には布団がしっかりかけられている。

 呼んだら「なんだよ。起こすんじゃねーよ」と文句でも言いそうなくらい。

 征規が快晴に近づいた。春那は部屋に入った途端にしゃがみこんで泣いてしまっていて、私はドアの前から動けない。

「快晴、起きろ。みんな心配で慌てて来たんだよ。寝てないで起きろ。心配かけてんじゃねーよ」
 征規は快晴の頬を触りながらポツリ言った。

 それを聞いて春那が声を上げて泣いている。

 私も涙が後から後から流れて止まらない。

「大学受かったか?お前、A判定だっけ?余裕だっただろ?余裕なら家でパソコンから見ればよかったんだよ。なんでわざわざ見に行ったんだ?余裕なら俺もついていけばよかったな」

 征規は快晴の頬を何度も撫でている。肩が震えている。声も。

「一人で行かないで、俺や雫や春那でも誘えばよかったんだ。もし落ちても、誰もお前を笑わないよ。なんでだ?一人で行かなきゃ今頃お前は……」

 そこまで言って征規は崩れ落ちて、布団を掴んで大声で泣いた。

 征規が言いたかったのは、一人で行かなければ『死ぬことはなかった』だと思う。

 そうだよ。私たちが一緒に行けば事故になんかあわなかったはずだよ。

 もし落ちたらって、恥ずかしかったの?

 どうして一人で行ったの?

 征規の言う通り、余裕だと思っていたなら家で結果見ればよかったじゃん。

 征規と春那の泣き声を聞きながら、窓の外をぼんやりと見た。
 今日は冬なのに暖かい。本当は雪が降る季節なのに雨がシトシトと降っている。

 雨が好きな快晴。名前とは逆じゃないか。

 快晴が雨は嫌なことを洗い流してくれるから好きだと言った。

 快晴と何かあると雨の日が多くて、雨男で、でも快晴の影響で少しだけ雨の日が好きになった。

 だけど、今日の雨は大嫌いだ。

 今まで好きになりかけていた快晴と過ごした雨の日も嫌いになってしまいそう。

 快晴を連れて行ってしまう雨なんか大嫌い。


 嫌なことが洗い流れない。今、この瞬間が人生で一番洗い流してほしいのに。


 ふとベッドの横を見ると、快晴の荷物がある。財布。何か番号の書いた紙。受験番号なのだろう。スマホもキチンと置いてある。血だらけのスマホに私が作った下手くそな御守りがぶら下がっている。御守りは青かったはずなのに血で真っ赤に染まっている。