しばらく二人で茫然としていると、スマホが鳴った。私のスマホ。着信を見ると征規だ。
「も、もしもし……」
鼻をすすりながら言うと、涙声の征規が言った。
「快晴の親から電話がきて、快晴が……快晴が……」
そこまで言うと征規は小さな声で嗚咽している。
「……今、ニュースでやっていて、春那と見た。ねえ、征規?快晴が事故死したって本当のことなのかな……?」
泣き叫ばないように必死になって声は震えるけれど、冷静に話そうと踏ん張る。けれど涙だけは止まらない。
春那は私のクッションに顔をうずめて泣き声を上げている。
だから、私だけでも冷静でいなきゃいけない。震える足も声もなんとか踏ん張って、私だけでも頑張らないとだめだ。
涙声で支離滅裂な征規を何度も何度も諭して、快晴がいる病院名を聞きだした。
大学が春休みで、たまたま家にいてニュースを見た春那の二番目のお兄さんが車を出してくれて、私と春那は病院へ向かった。征規は親が乗せていってくれると言った。
病院のロビーで待ち合わせをして、三人が顔を合わせる。誰も言葉を出さない。たった一時間くらいの出来事のはずなのに、私たちは一気に歳を取ってしまったかのように憔悴している。
「快晴のお友達?」
女性の声に振り返ると、小さな女の子を連れた人がいる。一目でわかる、雰囲気がとても快晴に似ているから、お姉さんなのだろう。
「ごめんね、こんな形で会いたくなかったね」
お姉さんは少しだけ微笑んだけれど、目が真っ赤で、私たちよりもずっと憔悴しているとわかる。頬がこけたような感じで生気が全くない笑顔だから。
なんて言葉を出したらいいのかわからなくて、三人で首を振った。
「さっき、綺麗に処置してもらったの。快晴に会ってもらえるかな?」
お姉さんに言われて、私たちは快晴に会いに向かった。
快晴がいる場所は霊安室ではなく、個室だった。
だから余計に思う。事故にはあったかもしれないけれど、怪我をして入院しているだけなのではないか?と。
重傷かもしれないけれど、すぐに目を覚まして「いてー‼マジで最悪だ」って悪態をつくのではないかと。
だけど、個室のプレートには快晴の名前はない。
お姉さんがドアを開けて
「今、両親も色々……警察と話とか、手続きとかでいないの。しばらくは戻ってこないから、ゆっくり快晴に会ってあげてね」
と言って、快晴の姪っ子を連れてその場を離れた。