「雫‼雫‼」
家中に響くような大声で春那が私を呼んでいる。
快晴の結果を先に聞いたのかな?
それにしては悲鳴のように私を呼ぶ声だ。
……まさかダメだったとか?
少し考えて「何―?」と返事を返した。
ダメでも他の大学も受けているはずだし、変な励ましはしない方がいいだろうと思う。
ドアが壊れるのではないか?と思うほどに勢いよく開いた。
春那がドアの前に突っ立ている。顔色が真っ青だ。
快晴のことじゃないの?
「どうしたの?大丈夫?」
私が声を掛けると、その場にへたり込む。
「ちょっと、春那?どうしたの?」
近寄って肩に手を置くと、春那の身体がガタガタと震えている。
普通じゃない。何かが起こったんだ。それもいいことではない。嫌なことが起こった。
私も緊張してきて、肩に置いた手に力を込めてしまう。
「春那‼」
思いきり肩を揺すると、春那がハッとしたように私を見る。口が動いているけれど声になっていない。
「春那?どうしたの?教えてくれないとわからないよ‼」
「て、テレビ…ニュース…早く…」
「テレビ?ニュース?」
私が繰り返すと春那は勉強机代わりのテーブルの上に置いてあるリモコンを掴んで、小さなテレビの電源を入れる。
チャンネルを滅茶苦茶に変えまくっている手は相変わらず震えていて、リモコンを何度も落としそうになっている。
丁度、お昼前の数分のニュースがやっている。地方版のニュースなのだろう。男性のアナウンサーがニュースを読み上げている。
『続いてのニュースです。本日、午前9時頃、○○町の交差点で信号無視をした乗用車に男性がはねられ、病院に運ばれましたが間もなく死亡が確認されました。男性の名前は、大津 快晴さん18歳。市内の高校に通う学生です。本日、大津さんは大学入試の合格発表に行き、その帰りに横断歩道を渡っている最中、信号無視の乗用車にはねられた模様です。乗用車を運転する……』
画面に映る事件現場のような交差点。血の跡がある。
テロップには『男子高校生、事故死』とあり、『大津 快晴さん(18)』と出ている。高校名までも。
「は……?」
思わず間抜けな言葉出る。
春那は震えながらリモコンを握りしめている。
「大津 快晴?はねられて死亡?何の冗談?」
何これ?ドッキリ?下らない冗談もいい加減にしてほしい。悪趣味にも程がある。
「……さっき、下でテレビがかかっていて、このニュースやっていて、他の局でもやっているんじゃないかと思った……私も冗談だと思いたい」
春那は真っ青な顔で、でも目から涙が流れている。
私も冗談かと言ったけれど、言葉を出した途端から涙が溢れて止まらない。
テレビは次のニュースを流している。