ケアワーカーさんに「もう帰りなさい」と言われて、居間を出ると征規と春那がいた。

「心配しすぎて勝手に入ってしまった」

 そう言った征規の目は真っ赤だった。隣にいる春那は泣いていた。

「雫さん、待って」
 ケアワーカーさんが声を掛けてくる。

 そして、少し大きめな紙袋を渡された。受け取ったその袋はずっしりと重い。

「牧村さん……お母さんが本当は自分の荷物に入れようとしていたけれど、あなたに会うってわかってから、これは雫さんに渡すって言っていたわ」

 袋の中を覗くと数冊のアルバムが入っている。
 一冊取り出して開くと、
『待望の女の子が生まれた。名前は雫。周りに幸せを与えられる子になってほしい』
 生まれたばかりの私の写真の横にお母さんの字でそう書いてある。
 ページをめくると、私の成長の記録が写真と共にたくさん貼ってある。

「これ……」

「受け取ってもらえるかしら?」

 女性に言われて、涙が出そうになったけれど、笑顔で頷いた。

「ありがとうございます。母にも、ありがとうって伝えてください」
 そう言う私に、女性は笑顔で「わかったわ」と言った。

 玄関を出ると雨は上がっている。

 にわか雨だったのだろうか。

「腹減らない?」
 征規が言って、「減った‼」と春那が同意する。

「雫が頑張った記念になんか美味い物食おうぜ」

「もちろん、征規の驕りだよな?」
 快晴が言うと征規は「ええ?」と困った顔をした。

「征規の驕りなら焼肉食いたい‼」
 春那が手を上げる。

「あ、私もそれ賛成。征規ゴチでーす」

 私も言うと征規は益々困ったという顔になったけれど、
「うっしゃ‼その代わり食べ放題だからな‼」
 と言った。

 駅に向かう道を歩きながらみんなで笑っていると、快晴が肩をトントンと叩いた。

 快晴が後ろを指さした。

 外にお母さんが立っている。

 その上には薄っすらと虹が出ていた。

 お母さんが小さく手を振っている。

 また涙が出そうになったけれど、私は自分が出来る精いっぱいの笑顔で大きく手を振り返した。



 この虹とお母さんの姿を私は一生忘れないだろう。



 いつか病気を克服した元気なお母さんに会いたい。

 その時は自分の夢や希望を持った私でありたい。