快晴が三度目のチャイムを押した時、
「いいよ。向こうが会いたくないんだから仕方ないよ」
 私は自嘲気味に言った。

 私のせいでこんなことになったのを恨んでいるのかな。

「よくはないだろ。雫の勇気を馬鹿にするんじゃねーよ」

 ムっとした顔の快晴は玄関ドアを握り締めて勢いよくドアを開けた。
 バンっと音が鳴るほどの勢いでドアが開いたことに驚いていると、中から知らない女性が不審そうな顔で出てきた。私たちを上から下までジロジロと見ている。

「牧村雫さん?」
 スーツの女性が私を見ながら言った。

「はい」

 頷くと隣をチラリと見る。

「あ、同級生の……」

 私が快晴のことを説明しようとすると、
「雫の親友の大津快晴です」
 ハッキリと快晴が答えた。

 女性はケアワーカーさんなのだろう。

「大津くん?彼も同席するのかしら?牧村さん、ああ、お母さんの方ね。お母さんに大津くんの同席を許可してもらわないといけないわね。今、お母さんは少し不安定だから大津くんがいることをどう思うか確認しないと……」

「出てこいよ‼逃げてんじゃねーぞ‼」

 女性が言い終わらないうちに快晴が奥に向かって叫んだ。
 私と女性がギョっとした顔をしていると、奥から人が動く気配がした。

「大津くん。牧村さんは、さっき言った通り不安定だから」
 女性が快晴を少し窘めるように言うけれど、そんな声は快晴には聞こえていない。

「不安定ってなんだよ、あんたより雫の方がずっと不安定だし傷ついてるんだよ‼散々傷つけておいて逃げるのかよ‼」

「か、快晴、もういいから。とりあえずお母さんのことを待とうよ」

 私が慌てて快晴を抑えようとしていると
「さっきから、あなた誰なの?そんな怒鳴り声を聞いたら誰でも出ていきたくなくなるわ」
 奥から久々に聞く、機械的な声がした。

 その声を聞いただけで身体が硬直する。

 私の様子を見てケアワーカーさんが言った。
「雫さん、今日の面会はやめましょう。お互いこんな精神状態で会うのは危険だわ」



 本当は逃げたい。

 一生会わなくてもいい。

 でも、でも、それじゃあ今の私を変えられない。



「大丈夫。これで二度と会えない方が後悔するから」
 額から流れる汗を拭って快晴に頷いた。