夏休みの最終日、私は久しぶりに自分の家の前に立った。
夏休み最後の日だというのに天気は悪く、いつ雨が降ってくるかわからないようなどんよりとした厚い雲が空を覆っている。まるで私の気持ちがそのまま空に反映されているかのように。
きっとみんなは最終日がこんな天気でガッカリしているのだろう。
お母さんは施設に入る前に身支度の準備で、度々、一時帰宅しているらしい。この家も、もうすぐ売りに出されるとお父さんは言っていた。
お母さんはケアワーカーさんと一緒だと聞いているけれど、チャイムを押そうとする指が震えてなかなか押せない。玄関のドアは開いているのかもしれない。鍵だって持っている。チャイムを押す勇気も、ドアを開ける勇気もまだ沸いてこない。
このまま逃げてしまおうか?
別にお父さんは会わなくてもいいと言っていたし。お母さんはお父さんから私が今日、ここへ来ることは聞いているはずだ。でも、何度も何度も『無理はしなくていい』と言われている。お父さんが一緒について来ると言ったのを断って私は一人でここへいる。
怖い。
あの他人を見るような目をまた向けられたら私は言いたいことを一つも言えないかもしれない。