桜が舞う四月。
高校の入学式の今日は、桜は舞うどころか雨で花びらは散りそうだ。
校門の前で幼馴染の坪田 征規|《つぼた まさき》を待っていると、征規は母親と歩いてきた。
征規とは小学校一年生の頃から中学三年生までずっと同じクラス。もう奇跡どころではなく、腐れ縁を通り越しているような気がする。
「雫―、待たせたな」
征規は7歳の頃から変わらない人懐っこい笑顔で私に手を振った。
雫。私の名前。
牧村 雫。|《まきむら しずく》
征規とは違い愛想はない方だと思う。美人でもないし。
隣にいる征規のお母さんに「おはようございます」と頭を下げた。
征規のお母さんは征規にそっくりな笑顔で
「また雫ちゃんと同じ学校で同じクラスなんて面白いわね」
と、クスクス笑った。
入学前にクラスの書類が来ていたが、征規に確認するとやはり同じクラスだった。これは高校の三年間も一緒な気がする。大学まで同じだったら、もう笑うしかない。
征規のお母さんがキョロキョロとしながら言った。
「あら?雫ちゃんのお母さんはいらしてないの?」
ドキリとしたけれど、見透かされないように笑顔を貼り付けて返事をする。
「仕事が忙しいので……」
征規のお母さんは首を傾げながら言う。
「お仕事忙しいのね、中学の入学式にもお会いできなかったし、最後に会ったのは小二の運動会だったかしらね?その時はお腹に妹さんがいて大きいお腹で大変そうだったわね。妹さん元気?」
悪気は全くないのはわかっているけれど、早くこの話は終わらせたい。
「はい。元気です」
貼り付けたままの笑顔で言ってから
「征規、そろそろ教室に入らないと」
と、その場をさっさと切り上げるように言う。
「おう、そうだな。母ちゃん入学式が終わったら、さっさと帰れよ」
「はいはい、言われなくても帰りますよ。雫ちゃん、またね。いつでも遊びに来てね」
征規のお母さんに頭を下げて、校舎に向かった。