妹の杏奈が生まれたのは小学校2年生で、もうすぐ3年生になる頃だった。

 それまでは、私の家はごくごく普通で、誕生日を大好きなケーキで祝ってくれる、クリスマスも欲しいものがプレゼントされる、お父さんもお母さんも笑顔で優しかった。

 でも、私には見せなかったけれど、2人目の子供が欲しくても、不妊になり、病院に通っていたけれど、なかなか出来なかったらしい。これはお祖母ちゃんが、ついうっかりと口を滑らせたのを親戚の集まりの時に聞いてしまって知った。

 杏奈がお腹に来た時は家族中大喜びで、妹だとわかると、私は嬉しくて一緒に何をして遊ぼうかを考えたり、お母さんの大きなお腹に「お姉ちゃんだよー」と声をかけたりして、生まれてくることを楽しみに待っていた。
 お母さんも「雫の声、ちゃんと聞こえているよ」とお腹を撫でながら笑顔だった。

 そして待望の杏奈が誕生した。

 私にはとても可愛らしい赤ちゃんに見えていたけれど、お医者さんから両親に告げられたのは、杏奈はあまり身体が丈夫ではないから他の子が出来ることも制限しなくてはいけないことが多く、思い通りにいかなくて癇癪を起こしたり、言うことを聞かないこともあるかもしれないと。そして、薬を一生飲み続けなければいけないとも。

 それを告げられた両親の絶望も知らず、私は杏奈を抱っこしたいとお母さんに言った。
 そうしたら「触らないで‼」と大きな声で言って、その声にビックリしている私にお母さんは言った。

「あんなに苦労して、苦しい思いをして、やっと授かった杏奈がこんなに可哀想で、何事もなく生まれた雫はなぜ五体満足で健康なのよ」 

 涙を流しながら呟くように言ったけれど、五体満足という言葉を知らなかった私はお母さんが何を言っているのかわからず、杏奈を抱っこしたいと言ったのはそんなにダメなことだったの?それとも私は何かお母さんを怒らせることをしたの?と思った。