征規の家の前で待っていると、スポーツバッグを担いだ征規が出てきた。
「雫‼大丈夫か?」
「うん……大丈夫」
安堵した征規が私の隣に乗り込む。
「征規、制服とか持ってきたか?カバン持ってなさそうだけど」
春那が後ろを見ながら言った。
「非常事態の時に明日学校なんか行くわけねーだろ?雫の親が来たらどうすんだよ」
「まあ、明日はサボりってことは私と同意見だけどな」
「って快晴に言われたから学校道具は持ってきてない」
「お前の考えじゃなくて快晴かよ‼まあいいけど」
春那は呆れた顔をしたけれど、私はクスっと笑ってしまった。
征規はテンパると冷静な判断ができない。それを知っているから、快晴が助言したのだと思う。征規のことをよく知っている、やっぱり一番の友達だからなのだろう。
快晴の家に着くと、家の前で快晴が座ってスマホを見ていた。そして、車に気が付くとバッグを抱えて近づいてくる。
「快晴、外でずっと待ってたの?」
ギュウギュウになりながら後部席に乗り込んだ快晴に春那が言った。
「まあな。別に親がうるさいとかじゃねーよ。うちは放任主義だからな。色々考えたいから外の空気に当たりながら待ってただけ」
「なんか思いついたのか?」
征規が聞いても、快晴は首を振った。
「そもそも、雫がどうして家を飛び出すことになったかの原因がわからないとどうしよもないだろ?」
そっか……、私は春那に助けてとしか言っていない。他に言ったことと言えば、家を飛び出してきて行くところがないとだけ。
「なんか……ごめん。みんなに迷惑かけてるよね」
私が呟くと、真ん中に座っている征規を押し付けて快晴が私の顔を覗きこんんだ。
「お前、泣いてた?暴力は振るわれてないよな?」
快晴の言葉に他の二人も息を飲むのがわかる。お兄さんはミラー越しに私をチラっと見た。
「暴力はないよ。肩を押されただけ。ただ、今日のお母さんは不安定だから、私が何か言うと……って感じかな。私が生意気な口を聞くのが悪いだけ」
「それは違うだろ、そういうのって虐待っていうやつじゃないのか?」
征規が声を荒くして言うけれど、感情的になって肩を押されてり、最近はないけれど頬を叩かれたりしたこともある。それが虐待になるのかはわからない。
「とりあえず」
前を向いたまま春那が言う。
「うちに着いてから話そう。雫、辛いかもしれないけど私たちに全部話してほしい。そうじゃなきゃ雫を救えない」
全部話さなければいけないのはわかっている。快晴の家に向かう最中にみんなに迷惑をかけているのだから、全てを話さないと失礼だと思っていた。
こんな時間に明日は学校もあるのに、みんな何も言わずに駆けつけてくれたのだから。
「うん……わかってるよ。全部、ちゃんと話すから」
私が返事をすると、車内が静かになった。