良太がタキシードイケメンに案内されたのは、踏切のすぐそばに佇む瀟洒な館だった。

茶色い煉瓦の壁にビターチョコレートの扉、緑色の三角屋根、白枠のアーチ窓。

民家が立ち並ぶ通り沿いに、突如にょっきりと突き出た背の高い洋館は、それだけでただならぬ雰囲気を醸し出している。

否が応にも目立つこの建物のことは、もちろん良太も知っていた。といっても、おそらく高級レストランか何かなのだろう、と漠然と考えていた程度だった。

ドレスアップした若い女性やマダムが、入り口に集っているのをたびたび見かけるからだ。

入り口の壁には、店名と思しき筆記体が刻まれた看板がぶら下がり、生成りの紙が貼られている。

『当店では、料理は提供いたしてしておりません』

 インパクトのある注意書きに、良太は首を傾げた。

見たところレストランなのに、料理がないとは、一体どういうことなのだろう?

釈然としない気持ちのまま、良太は男性のあとに続いて扉の向こうに足を踏み入れた。