「由伊、出かけてるの?」

 梅雨のさなかの蒸した夜。
 会社から帰ると、リビングにいたのは無月と遊佐だけ。

「支葵も帰んねーと思うケド」

 あたしにご飯をよそってくれながら、遊佐が返答する。

 外はまだ雨も切れないのに。
 こんな夜に出て行ったのかと小さくため息が漏れた。
 違う。そうさせてるはあたしだ。遊佐も無月も、時々いないのを知ってる。
 あたしが消費させる分を埋める為だってこと。

 巣で親鳥たちが餌を口に運んでくれるのを待ってるヒナみたいに、いつもあたしは貰うだけ。
 こんなに甘やかされて、大事にされてる子なんているのかな。
 シアワセだと思うことと、そうでないと思うことと。
 どっちもあるのは、ほかのひとと同じなのにね・・・。

 そんなあたしの心境を見透かしたように、遊佐がシニカルに笑う。

「育ち盛りのお嬢を養うのはオレたちの仕事なんだから、しっかり育ってくんないと。氷凪の若ダンナにリストラされるだろ?、三人とも」





 由伊のいない夜は、誰かがそばにいてくれる。

「今夜はオレが独り占め」

 そう言いながら、遊佐はバスタブの中であたしの躰を好きにする。

 
 本能で求める快楽。
 本能が求める、(ことわり)

 一番あたしが生気に満ちる瞬間。歓喜する瞬間。絶頂に達する、あの瞬間があたしのすべて。





 そうして明けた朝。
 またひとつ、掛け金が外れてくように、あたしに現れた徴(しるし)。
 鏡に映ったアクアマリンの瞳。まるで人形の目みたいな、・・・宝石色の。