日が西に傾いてきたが、白蓮さんはまだ戻っていないようだ。


「夕食の時間ね……」


瞬時に台所にあった材料を頭に思い浮かべて献立を立てる。

祖母直伝のふわふわのだし巻きたまごを振る舞ったら、どんな顔をするだろう。
昼食時の笑顔を思い出すと、ムズムズする。

それに……意識を失っている間、心配してくれただろう皆にお礼もしたい。


そう考えた私は、再び台所に向かった。


「あ……」


すると宿のほうの玄関で、熱心に床を磨いている雪那さんと出くわした。


「どこに行くのよ?」
「えーっと、台所に」
「ふーん。鬼童丸さまはいないわよ」


全部鬼童丸さんに結び付くのがおかしい。


「捜してないから大丈夫。雪那さんって、一途で素敵ね」


あまりに敵対視されるので、持ち上げておこうというちょっとした下心だった。


「わかるー? あんた、結構いいヤツね」


あれっ、意外にちょろい?


「あはは。ありがとう。それじゃあ」