けれど、前世の記憶がない私には、関わりあいになりたくなかったという気持ちもくすぶっている。

ただ……彼が私が危険な目にあうことに心を痛めていることは十分すぎるほど伝わってくるし、守ろうとしてくれていることも。

だからといって嫁になる気はないし、あやかしばかりの幽世で生きていくのもはばかられる。


「静かに暮らしたいだけなのに……」


人間の私にとって、現世で生きていくことが当たり前であり、幽世という今まで存在すら知らなかった世界で生きていくなんてありえない。


でも……現世に私の居場所ってある?

たったひとりの家族だった祖母もおらず、大好きな桜庵も閉店したままで再開の見通しがあるわけでもない。

どこにいればいいの?

先ほど、あんかけおこげをすさまじい勢いで食べてもらえて、皆に「うまい」を連発されて、久しぶりに心が潤った。本当に心地いい時間だった。

でも、その相手が全員あやかしで、人間の私がひとり交ざっているという不自然さ。