「はい。白蓮さまは月の世のあやかしもなんとか救いたいとお考えでしたが、黒爛は逆。陽の世を手に入れたいとばかりで……。それで彩葉さまに目をつけたのです」


他人のテリトリーを侵さなくとも、もっとやりようがある気がするのに、できるだけ楽をして大きな成果を得たいタイプのようだ。

人間にもそういう人はいっぱいいるし、私もそうかもしれない。
ただ、誰かを傷つけてでもなんて思ったことはない。


「ですが、この宿には月の世の者は近づけません。それに、彩葉さまがお出かけになるときには必ず白蓮さまが同行されましたので、手出しすることができませんでした。そこで黒爛は彩葉さまの優しさを利用しました」


彼は唇を噛みしめて悔しそうな表情を見せる。


「私の優しさ?」
「はい。白蓮さまが街に下りられてお離れになっているすきを狙い、西側の窓から見える川に子供のあやかしを……」


彼がそこで言いよどむので、緊張が走る。