「いや、当然だ」
当然? どうして?
「私のこと、ご存じなんですか?」
「まあね。もうずっと前から知っているよ」
黒爛に凄んだときとはまるで違う柔らかな声にひどく安心した。
「ずっと前から? お名前をお聞きしても?」
心当たりがない私は、少しでも思い出そうと名前を聞くことにした。
「俺は白蓮(びゃくれん)と言う」
「白蓮さん……」
名前を聞いた瞬間、雷に打たれたような衝撃に見舞われたものの、記憶の引き出しが開きそうで開かない。
「ごめんなさい。思い出せなくて……。どちらでお会いしたでしょう?」
「今はいい。そのうち思い出すさ。ただ、黒爛には気をつけろ」
「は、はい」
と言われても、突然目の前に現れるのだから気をつけようがない。
でも、彼が来てくれて命が助かった。
そういえば『お前ひとりで俺はやれぬ』と口にしていたが、白蓮さんはケンカが相当強いということだろうか。