「あ、あのっ、消えっ……」


黒爛が消えただけでない。彼もまた風と共に姿を現した。


「あぁ、まあ手品のようなものだ」
「は?」


なんて適当な説明なのだろうとも思ったが、それより今は突然殺意を向けられたという事実に衝撃を受けている。

まっとうに生きてきたつもりだったのに、知らないところで恨まれていたなんて。


でも黒爛は『邪魔されては困る』と口にした。

とすると、恨んでいるのではなくこれから私がなにかをするということ? 


私にできるのは料理くらいなのに。
料理を作って恨まれることなんてあるの?

わけがわからず、頭が爆発しそうだ。


「百面相が得意なのか?」
「違います」


話しかけられてようやく我に返った。


「あ、ありがとうございました」


まだお礼を言っていなかった。

座ったままでは失礼だと思ったものの、やはり腰が立ちそうにない。

いまだなにが起こったのか呑み込めず、恐怖で鼓動の高鳴りが収まらずにいる。