「彩葉がそばにいる俺を、お前ひとりではやれぬ。わかっているくせしてでかい口を叩くな」
凄みのある声で着物の男がけん制すると、悔しそうに「ふー」と大きく息を吐き出した黒爛は、煙が消えるように姿を消した。
き、消えた?
「大丈夫か?」
振り向いて微笑んだその人は、艶のある黄金色の髪を持つ美男子だった。
うしろ髪は長く、ざっくりとひとつに結わえている。
そして前髪の間から覗く切れ長の目が印象的な彼を見ていると、なぜか懐かしい気持ちになる。
「は、はい」
先ほどとは違い体が自由に動くのに、今度は足が震えて立つことができない。
「腰が抜けたか? まあ、無理もない」
彼は私の前にしゃがみ込み、「もう震えなくていい」と手を伸ばしてきて、子供をあやすように頭をポンと叩く。
目の前の彼は顔が小さい上に、男性なのに〝美しい〟という形容詞がぴったり当てはまる。
しかもどことなく品があり、女の私ですら負けたと思うような妖艶さをたたえていた。