このままではまずいとわかっているのに、どうしても体が動かない。
先ほど赤い目を見てからだ。なにかされたんだ……。
それを今さら悟ったところで、現状は変わらない。
目を見るだけで動けなるなんてことが果たしてあるのかわからないが、あれこれ考えている時間はない。
とにかく逃げる方法を考えなくては。
「な、なに? 私になんの用ですか?」
私は時間稼ぎのつもりで質問をぶつける。
答えてもらえないと思ったのに、彼は口を開いた。
「お前に邪魔されては困るのだ。おとなしく逝け」
邪魔? なんの話?
「ど、どうして? 私、なにかしました?」
震える声で精いっぱいの抵抗をする。
どれだけ記憶をたどってもこの男のことを思い出せない。
大体、こんなにいい男なら普通は覚えているものでしょう?
人違いで殺されるなんてまっぴらだ。
でも私の名前をはっきり口にしたから、間違いではない?
混乱して考えがまとまらない。